
【ニャーゴロ新聞:医学研究所vol.3】世界初のRNAi治療薬がFDA承認
世界初のRNAi治療薬「パティシラン」のFDA認可がScience誌の2018年の10大ブレークスルーに選ばれました。RNAiはRNA interferenceの略であり「RNA干渉」を意味します。2006年のノーベル生理学医学賞の受賞理由ともなったRNAiですが治療薬認可までは困難な道が待ち受けていました。RNAiの発見から世界初の治療薬認可までを追うことで、基礎研究から臨床応用、所謂Bench-to-Bedsideが直面する困難を追体験したいと思います。
今月号の論文
遺伝子サイレンシング薬をFDAが承認
関連分野:生化学、神経内科学
Ledford, H. Gene-silencing technology gets first drug approval after 20-year wait. Nature 560, 291–292 (2018)

RNAi治療薬「パティシラン」が承認
2018年8月、世界初のRNAiによる治療薬「パティシラン」がFDAに承認されました。パティシランはトランスサイレチン型家族性アミロイドーシス治療薬として開発されて、特定のmRNAをノックダウンすることでTTRタンパク質の産生を防ぎます。異常なアミロイドーシスの沈着を阻害して神経障害や心筋症の発症を防ぎます。
hATTR(トランスサイレチン型家族性アミロイドーシス)とは
トランスサイレチン型家族性アミロイドーシスとは遺伝性のTTRの変異により異常なアミロイドタンパク質が蓄積し、末梢神経や心臓にダメージを与える疾患です。世界では約5万人が罹患し、治療法はなく生存期間は約5年となっています。
手足のしびれや不整脈などの症状を示すことが多いが、診断までに時間が掛かることも多いそうです。
RNAiとは
RNAiはRNA interferenceの略であり「RNA干渉」を意味します。RNAiは遺伝子サイレンシングという自然な細胞内プロセスで、2本鎖RNAと相補的な塩基配列を持つmRNAが分解される現象です。RNAiは酵母からヒトまで保存されている機構であり、ウイルスからの防御機構であるという仮説があげられています。1998年にアンドリュー・ファイアー等が線虫の一種であるC.elegansを用いて2本鎖RNAによる阻害効果を示し、2006年にクレイグ・メローとともにノーベル生理学医学賞を受賞しています。
臨床応用までの道のり
「パティシラン」開発までの道のりは1998年のアンドリュー・ファイアーの発見に始まり、Alylam社は2002年から「パティシラン」の創薬に着手したが、RNAを分解されずに標的臓器まで送達する方法の模索が続きました。その後徐々に出資者の関心が薄れていくなかで2016年に行われたRNAi治療薬の治験結果が振るわず、注目はますます薄れていました。しかし、RNAを保護する手法の研究開発によって今回のFDA 承認へ至りました。
今後への展望
近い将来の「パティシラン」の適応拡大に加えて、今回の肝臓のみならず腎臓・眼球・脳・脊髄を標的臓器とするRNAi治療薬、そして線維性嚢胞症を標的とする治療薬の開発が進められているそうです。
また、RNAiを利用した治療法が直面した問題を今話題のCRISPR-Cas9がどう乗り越えていくかに注目されています。