記憶のメカニズム!~海馬と嗅内皮質~

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どのようにして記憶は形成されるのだろうか?これまで研究者たちは海馬こそが記憶の形成に関わる重要な領域だと信じてきた。しかし、最近の研究によると、どうも脳における別の領域が重要な役割を担っているらしいことが分かってきたという。

我々の脳は記憶の保持に関して素晴らしい能力を持っている。それは、まるで本棚に収められている本を何も考えずに取り出し、それらの本の情報にアクセスする様である。同様にして、我々の脳も、場所、出来事、経験といったものをメモリーバンクへ記憶として保存しておく。そして、これらは大抵、たとえその出来事が起こった何年も後でも、好きな時にアクセス可能である。

 

しかし、このような仕組みが実際にどのように可能となっているのだろうか?科学者たちは、これまで海馬こそが記憶を呼び出すのに重要であると考えてきた。だが、オーストリアの基礎科学研究所(IST)の最近の研究によると、記憶の想起には脳の別の領域が重要な役割を担っている可能性があるというのだ。彼らは、げっ歯類を用いて記憶システムの研究を行い、その研究結果は世界的に権威のある学術雑誌であるSienceに掲載された。

我々はどのように記憶を形成しているのだろうか?

 

我々がある出来事を経験すると、我々の脳は「エピソード記憶」というものを形成する。エピソード記憶とは”何をいつどこで”といった記憶の形態のことで、その出来事を経験したときの身体環境がその形成に重要であることが分かっている。

 

さて、今回、重要となる脳の部位は、「海馬」とその近傍にある「嗅内皮質」と呼ばれる領域である。

 

海馬には多数の「場所細胞(図(a))」とよばれる細胞が点在している。これは、個体がある特定の場所(例えば、部屋のある一か所)にいるときに反応するような細胞である。そして、海馬や場所細胞へ情報を提供しているのが内側嗅内皮質(MEC)とよばれる領域であり、ここにグリッド細胞(図(b))とよばれる細胞が含まれている。グリッド細胞も場所細胞と同様に、特定の空間的環境に対して反応する。ただ、場所細胞と異なるのは、複数の場所に対して反応するということ。そして、その配列が格子状であるということである。(正三角形を敷き詰めたときの頂点に位置するといった感じ)

 

睡眠時における記憶の定着

我々は、睡眠時に記憶を定着させていると考えられている。一度形成された記憶は、形成にかかわった場所細胞が刺激されることで、脳内で再生(リプレイ)されるという。睡眠時に海馬でよく観察される脳波である「鋭波」の発生中にリプレイが起こりやすいことから、鋭波とリプレイが記憶の定着に重要であると考えられている。研究者たちによれば、海馬が記憶のリプレイを担っている一方で、MECがその情報を他の脳領域へ送り届けているのだという。

 

嗅内皮質は海馬とは独立して働いている

ISTのJozsef Csicsvari教授の率いる研究チームは海馬とMECの表層領域(sMEC)の活動を調査した。Csicsvari教授らは、迷路に入れられたラットが迷路を脱出しようとしているときの脳のニューロンの様子を記録した。驚くべきことに、sMECのニューロンは、海馬の活動とは独立して、活動していることが判明した。(たとえ、海馬のニューロンが活動を行っていないときでも、sMECのニューロンは活動しているということ。)

 

つまり、これまで、海馬こそが記憶の形成と想起に重要な役割を担っていると考えられていたが、内側嗅内皮質(MEC)における神経活動も海馬とは独立に、記憶の形成に関与しているということだ。

 

 

僕たちが記憶に関する脳の領域と言われて真っ先に思い当たるのは海馬ですが、(少なくとも、この記事を書くまで僕はそうでした。)実際は近傍の別の領域と上手く連携をとっていたり、あるいは、海馬以外の領域も海馬とは独立に記憶に関係していたのですね。勉強になりました。

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