
ゴッホの絵に黄色が多いわけ【ものが見える仕組み】
ゴッホの絵には黄色が多く使われていると言われています。これには諸説ありますが、単にゴッホが黄色が好きだった、ということの他にゴッホは「黄視症」だったのではないか、とも言われています。
黄視症とは?
色が黄色っぽく見える、あるいは視界が黄色いフィルター越しに見ているような感じがする状態のことを言います。黄色以外にも、赤っぽく見える赤視症、青っぽく見える青視症、緑っぽく見える緑視症などもあります。これらを合わせて”色視症”と呼びます。さて、「黄視症」になってしまう原因としては様々な病気が考えられます。白内障や黄疸、鉛中毒など…。また、薬剤の副作用として生じる場合もあります。実は、ゴッホはジギタリスと呼ばれる薬剤の副作用によって「黄視症」となっていたのではないか、と言われています。
ジギタリスとは、18世紀後半から心不全に使用されている治療薬で、”てんかん”に対しても用いられていた時期がありました。ちょうど、ゴッホが生きていた時代には、”てんかん”にこのジギタリスが処方されていました。それでは、なぜこのジギタリスのせいで「黄視症」となってしまうのか?その訳は、私たちの”ものを見る”という仕組みの中にあります。

ものが見える仕組み
私たちがものを見るとき、光が眼球を通してその奥にある網膜に到達します。網膜上には、光を受け取る視細胞と呼ばれる細胞たちが およそ1億個ほど存在しています。この細胞たちによって、光は電気信号へと変換され、それが脳へと送られて あらゆる情報処理が行われます。この視細胞は、大きく2種類存在していて、それぞれ 桿体細胞と錐体細胞と呼ばれています。桿体細胞は光エネルギーの量、つまり明るさを感知しており、錐体細胞は色を感知しています。錐体細胞には3種類存在しており、それぞれ担当する色が決まっています。赤錐体・緑錐体・青錐体の3つです。私たちの脳は、これら3種類の錐体細胞が受け取った刺激の割合から それが何色なのかを判断しているのです。例えば、”黄色い光に反応する”という錐体細胞は存在しませんが、黄色い光を受け取ると、赤錐体と緑錐体が反応します。実際、黄色のRGB値は (255:255:0) です。
さて、視細胞たちは網膜上で光の刺激を受け取っていますが、実は 他の感覚器官における細胞たちと比べると少し特殊です。通常、感覚刺激を受け取る細胞たちは、刺激を受けると、”脱分極”と呼ばれる作用を引き起こします。細胞は、刺激の伝達を電位の変化によって制御しています。NaイオンとKイオンがこの電位の変化を担っています。何もない状態だと、細胞内の電位はおよそ -70mV に保たれています。細胞が刺激を受け取ると、Naイオンが細胞内へと流入してきて、細胞内の電位が一気に上昇します。これを”脱分極”と言います。この”脱分極”によって刺激の情報が次の細胞へと伝達されていきます。この一連の反応が刺激の伝達です。
しかし、視細胞は 光がない状態で”脱分極”しているのです。つまり、細胞内にNaイオンが沢山 流入してきている状態です。視細胞が光を受け取ると Naイオンの流入がストップし、この”脱分極”状態が解除されます。これらの一連の反応が、光の刺激の伝達となっています。ジギタリスには、この Naイオンの正常な流れを止めてしまう作用があります。そのことによって、錐体細胞は機能低下を起こしてしまいます。特に、薬剤の影響を受けやすいのは、赤錐体と緑錐体とされています。ゴッホはこのジギタリスの副作用によって、赤錐体と緑錐体の機能が低下してしまうことで、ものが黄色っぽく見えていたのです。(下図を参照してみてください。実は、僕も赤錐体と緑錐体の機能が低下すると、なぜ黄色っぽく見えるようになるのか?という部分に対するメカニズムを完全に理解できていませんが、図を見ると感覚的にわかると思います。)
