
【目とこころの不思議】時計の針って たま~に 止まってない?
サッカード
そもそも、「見る」とはどういうことでしょうか?僕たちは、眼球を通して、外の世界を見ています。まず、光が眼球を通して、目の奥にある網膜に到達します。網膜には たくさんの視細胞とよばれる細胞が存在しており、これらの細胞によって、光としての情報が電気信号へ変換されます。この電気信号が脳へと送られて、僕たちは 初めて 外の世界を認識できるのです。
僕たちは 起きている間、視線は絶え間なく動いています。実は、ある一点を見つめているようなときでも、僕たちの眼球は非常に細かく、そして 高速に動いています。これが、サッカードと呼ばれる眼球運動です。たとえば、今 この文章を読んでいるときも、あなたの目では サッカード が さかん に起きています。多いときには1秒間に5回程度発生し,その最大速度は500[deg/sec]にまで達することが知られています。非常に高速な運動です。この サッカード と呼ばれる眼球運動は 僕たちが ”ものを見る” という能力に必要不可欠な要素である と同時に、その人の無意識=こころ を大きく反映していることも 明らかになっています。
さて、そんな 非常に重要な眼球運動 サッカード。
しかし、ここで、一つの疑問が浮かびませんか?
なぜ 視覚はブレないの?
僕たちの、眼球は 実は非常に高速に、目まぐるしく動いていることがわかりました。では、なぜ、僕たちの視覚はブレないのでしょうか?たとえば、スマホのビデオカメラで 僕たちの サッカード 眼球運動と同じ動きをしてみましょう。録画されるのは、ブレブレ な動画。見るに堪えない動画になるはずです。(見てたら 酔っちゃうよね。)
そう。じゃあ、僕たちが 普段 目を通して 見えている映像も、そうなっていいはず。実のところ、僕たちの網膜には、このブレブレな映像が映っています。でも、僕らは たとえ 目を急速に動かしても その視覚イメージは ブレずに連続した なめらかな映像として認識できます。
網膜で 電気信号に変換された 視覚情報は、視神経を通して、脳の「視覚野」と呼ばれる 視覚情報処理を担当する部位へ送信されます。この「視覚野」で、とんでもなく高度な処理がリアルタイムで かつ高速で行わています。(おれたちの脳はすごい!!)その結果、僕たちが普段 見えている視覚映像 がつくり出されるのです。
さて、なぜ 僕らの視覚がブレて見えないのかというと、サッカード が起きている間は、脳の視覚をつかさどる部位における神経活動 が抑制されるためです。(サッカード抑制と言います。)つまり、まさに サッカード中に 網膜に映る ブレブレ な映像を カットしてしまう。僕たちの脳 は、巧みに 不必要な情報を無視しているのです。

それで、なんで秒針が止まるのか?
さあ、本題です。じゃあ、なぜ時計の針が止まって見えるのか?
僕たちの脳は、普段 不必要な視覚情報をカットしていることが分かりました。でも、僕たちは 自分の視覚情報が カットされていることを自覚することはありませんよね。カットされっぱなしだと、視覚が連続的ではなく隙間だらけになってしまいます。そこで、脳は、カットによって生じる視覚イメージの隙間を埋めるために、少しだけ時間をさかのぼります。どういうことか というと、サッカード直後の映像を用いて、カット部分の隙間を埋め合わせます。そうすることで、僕たちは なめらかな視覚イメージを認識することができるのです。
カチッ。秒針が針を進めた直後に、ちょうど 目が秒針に止まる。すると、視野がまさに動いていた間(=秒針が動いている瞬間と重なる時)の情報が、サッカード抑制 によってカットされます。そして、その後の秒針が止まっているときの映像で 時間を遡って その隙間(秒針が動いていた間)が埋められるので、いつもより 長い間 秒針が止まっているように感じるのです。
実は、このような一連のプロセスは 日常的に 僕らの脳内で行われています。自覚していないだけなのです。このように 脳=こころ によって再構築された時間と、外部の時間のズレに気づくことは普通ありません。しかし、外部に時間を計れるもの がある場合には、この異変に気付くことができるというわけです。つまり、それが 時計 です。「時計の秒針を見る」というタイミングにおいて、この現象を実感することができます。
ちなみに、この現象のことを『クロノスタシス(Chronostasis)』と言います。