【世界の偉人から学ぶ医学 #01】伝説のロック・スター『フレディ・マーキュリー』【AIDS/ニューモシスチス肺炎】

Pocket

大好きな伝説のロック・バンド『QUEEN』のフレディ・マーキュリー。45歳という若さでこの世を去った天才 ロック・シンガー。晩年、彼を苦しめたのはエイズ発症に伴う「ニューモスチス肺炎」とよばれる病気であると言われています。意外とちゃんと知らない人が多い「エイズ」とは? そして、「ニューモスチス肺炎」って?

エイズはどこから

エイズ(AIDS:Acquired Immuno-Deficiency Syndrome、後天性免疫不全症候群)が初めて公に知られるようになったのは 1981年。米国の医師が、カリフォルニアとニューヨークの若い同性愛者たちの間で奇妙な死者が続出しているとする報告によるものでした。1983年から1984年にかけて、エイズ患者から原因ウイルスを分離することに成功し、1986年の国際ウイルス学会において、HIV(Human Immunodeficiency Virus、ヒト免疫不全ウイルス)と命名されました。

少し余談ですが、「新しいもの、常にアフリカより来たり」という言葉は、古代ローマの博物学者”プリニウス”の言葉として知られていますが、これは 感染症においても正しい場合が多いそうです。エイズの起源はアフリカだと考えられています。アフリカ中部のチンパンジーの糞から、現在のHIVの起源とされるウイルスが発見されています。さらに、おもしろいことに、このウイルスはもともと、チンパンジーを自然宿主とするウイルスではなく、サルが持っていたウイルスであるそう。実は、チンパンジーは ときに肉食性となることがあり、あるとき サルを食べたことによって、このウイルスに感染したと考えられています。その後、チンパンジーたちの間で一気に広まり、ついにはヒトにも感染してしまいます。

さて、このHIVによって引き起こされるエイズという病気。そもそも、エイズとは、HIVに感染することで、免疫細胞が破壊され、後天的に免疫不全となり、日和見感染症や悪性腫瘍を引き起こす状態のことを指しますHIVはヒトの免疫細胞(厳密にいうとCD4細胞と呼ばれる細胞で、白血球の一つ)に感染し、これを破壊していきます。日和見(ひよりみ)感染症とは、免疫力が低下したときにかかる、さまざまな感染症や病気のことで、通常の健康な人は、その免疫力によって打ち勝つことのできる病原体が、免疫力や抵抗力の低下によって その病原性を発揮してしまう病気のことです。HIVに感染すると、この免疫細胞が破壊されていき、免疫力が低下することで、日和見感染症といった病気が発症してしまう というわけです。

そして、エイズの診断には次の23の代表疾患が定められており、これらのいずれかが発症した時点でエイズと診断されます。逆に言うと、HIVに感染していても、この23疾患のいずれかを発症しない限りはエイズとは言いません。

1.カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)

2.クリプトコッカス症

3.コクシジオイデス症

4.ヒストプラズマ症

5.ニューモシスチス肺炎

6.トキソプラズマ症(生後1ヶ月以後)

7.クリプトスポリジウム症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)

8.イソスポラ症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)

9.化膿性細菌感染症

10.サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)

11.活動性結核

12.非結核性抗酸菌症

13.サイトメガロウイルス感染症(生後1ヶ月以上で、肝、脾、リンパ節以外)

14.単純ヘルペスウイルス感染症

15.進行性多巣性白質脳症

16.カポジ肉腫

17.原発性脳リンパ腫

18.非ホジキンリンパ腫

19.浸潤性子宮頚癌

20.反復性肺炎

21.リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成

22.HIV脳症(認知症または亜急性脳炎)

23.HIV消耗性症候群(全身衰弱またはスリム病)

HIVは体内のどこにいる?

HIVは免疫細胞に感染するので、リンパ液および血液中に多く存在します。とくに、リンパ液は体中に行き渡るので、具体的には 唾液、涙、尿といった体液。そして、血液はもちろん、精液、膣分泌液、母乳などに多く含まれます。ただ、実は 唾液、涙、尿などの体液では他のヒトに感染させるだけのウイルス量は分泌されていません。エイズが発見された当時は、他人の汗や つば でうつるのではないか と心配されましたが、例えば 実際に つば から感染するためには、25mプール 一杯分ほどの つば をかけられる必要があります。汗や つば からは ほとんど感染しないと言っていいでしょう。

基本的に、HIV感染は、粘膜(腸管、膣、口腔内など)および血管に達するような皮膚の傷(針刺し事故など)からであり、傷のない皮膚からは感染しません。そのため、主な感染経路は「性的感染」、「血液感染」、「母子感染」の3つです。現在 最も多い感染経路は「性的感染」です。ちなみに、アナルセックスでは、腸管粘膜から精液中のHIVが侵入します。もともと機械的な刺激に強い膣や口腔の粘膜は重層ですが、腸管粘膜は単層であることから 傷つきやすいため、HIVが侵入しやすく、膣性交よりもアナルセックスの方が感染リスクが高くなります。

HIVに感染すると

HIVに感染したとしても、すぐにエイズを発症するわけではありません。
HIVに感染した後の経過は、症状によって 3つの時期に分類することができます。
「急性期」、「無症候性キャリア期」、「エイズ期」の3つです。

 

出典 http://hok-hiv.com/knowledge/process/
急性期

HIVに感染すると、感染後 2週間目から4週間目くらいの間に、HIVは急激に体内で増殖を始め、CD4細胞が破壊されていきます。この時期には、発熱・のどの痛み・だるさ・下痢など、風邪やインフルエンザに似た症状から、筋肉痛や皮疹などが出る場合もあります。いずれも、通常は 数日から数週間でこれらの症状は自然に消えてしまいます。

無症候性キャリア期

急性期を過ぎると、次に 何も症状の出ない時期が数年から10年程続きます。ただし、この期間には個人差があり、15年経っても症状が出ない人もいれば、最近では感染から2年ほどでエイズを発症する人も少なくないようです。この時期は自覚症状がないので、HIVの検査を受けない限り、自分ではHIVに感染していることが分かりません。症状が出なくても、体内ではHIVが増殖を続けており、CD4細胞の低下によって 免疫力は徐々に低下していきます。ある程度まで免疫力が低下してしまうと、寝汗や長期に続く下痢、理由のない急激な体重減少などの症状がでてきたり、帯状疱疹や口腔カンジダ症などの病気にかかりやすくなったりします。

エイズ期

免疫機能の破壊が進み、免疫力がだんだん低下していくと、やがて 健康体であれば何の問題も起こさないような微弱なカビや細菌などにも対応できなくなり、さまざまな感染症を起こしてしまうようになります。健康な人なら感染しないような病原体による日和見感染症や悪性腫瘍、神経障害といった 様々な病気にかかってしまう ということです。そして、先述の 23疾患のいずれか一つが発症した時点でエイズと診断されます。

ニューモシスチス肺炎

ニューモシスチス肺炎は、真菌の一種類である Pneumocystis jirovecii(ニューモシスチス・イロベチイ) と呼ばれる病原微生物によって 引き起こされる 肺炎です。日和見感染症の一つであるとともに、エイズの代表23疾患 の一つでもあります。以前は、Pneumocystis carinii(ニューモシスチス・カリニ )による肺炎とされ、「カリニ肺炎」と呼ばれていました。ニューモシスチス・カリニ はラットから見つかった病原体ですが、ヒトに病原性をもつニューモシスチスは、これとは異なる種類のもの(=ニューモシスチス・イロベチイ)であることが判明したため、改めて「ニューモシスチス肺炎」と呼ばれるようになりました。

出典 https://ja.wikipedia.org/wiki/ニューモシスチス・イロベチイ

ニューモシスチスが 普段どこに存在していて、どのようにしてヒトに感染するのかは 未だに不明ですが、幼小児期に ほとんどの人が不顕性感染(細菌やウイルスなど病原体の感染を受けたにもかかわらず、感染症状を発症していない状態のこと)をおこしていることが知られています。

ニューモシスチス肺炎 の 3 主徴は、発熱乾性咳嗽呼吸困難です。具体的には、1〜2か月ほど持続する 痰(たん)が絡まない咳 を認めることがあります。そして、病状が進行すると呼吸障害が重症化してきて、呼吸困難を伴うほどになります。その他、感染症に伴う全身症状として 発熱や体重減少 が認められることもあります。また、まれに 胸痛や血痰 がみられることもあります。

エイズによる発症以外でも、ステロイドや免疫抑制剤を使用している場合や、血液腫瘍に罹患している場合なども免疫状態が普段よりも低下しているため、ニューモシスチス肺炎 を発症する可能性があります。エイズによる発症 の場合は、そもそも HIVに感染していることが明らかになっておらず、逆に このニューモシスチス肺炎 の発症をきっかけとして はじめてエイズであることを指摘される場合もあります(いきなりエイズとも呼びます)。ニューモシスチス肺炎 の初発症状においては、特徴的な症状があまりないことも多いです。したがって、HIV感染を指摘されていない患者さんの場合は、ニューモシスチス肺炎 であることを積極的に疑わなければ 診断が遅れることもありえます。

フレディ・マーキュリーとエイズ

HIV が世界で初めて発見されたのは1983年。フレディ が検査で HIVポジティブ(陽性)の診断を下されたのは1987年の前半だったそうです。現在では、HIVに対する治療薬が著しく進歩し、エイズは「死の病」では なくなりましたが、当時は 治療法のわからない「不治の難病」でした。エイズと診断されてから 4 年後の 1991年11月24日、フレディ はロンドンの自宅で亡くなります。直接的な死因は、エイズによるニューモシスチス肺炎 であったと言われています。

 

ちなみに、映画『ボヘミアン・ラプソディ』では 1985年の ライブ・エイド よりも前にフレディがエイズだと診断されていますが、実際は 彼が エイズと診断されるのは ライブ・エイド よりも後です 。

 

僕は、David Bowieとの共作『Under Pressure』が好きです。

1 thought on “【世界の偉人から学ぶ医学 #01】伝説のロック・スター『フレディ・マーキュリー』【AIDS/ニューモシスチス肺炎】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です